朝日連峰縦走(山形県) 大朝日岳(1870m)から 以東岳(1771m)へ
一昨年縦走した 栂海新道(ツガミシンドウ)登山でのこと
北アルプスの朝日小屋で 同宿だった 無口な青年と
途中の登山道まで一緒になった
連れ合いが広島弁で話し掛けると
山形弁で返して来た
その時 彼が 山形の朝日連峰の話をしてくれたのだが
彼の山形弁は バリバリで
堂々としたものだった
こちらは70年近く広島弁をやっているのだが
とても太刀打ちできるものでは
なかった
そんなことがきっかけで 今回は
大朝日岳(オオアサヒダケ)を目指すことになった
青年が住んでいる辺りであろうと
思われる 関川村を通り
古寺鉱泉(コデラコウセン)から登ることにした
広島から車で 早朝出発
途中 新潟で一泊
古寺鉱泉に着いたのは午後3時
走行距離1100km
ここで車は 代行運転の柳川さんに
下山口の大鳥登山口まで 回送してもらうことにした
古寺鉱泉は70年前に建てられた
湯治場のような宿で 古い趣には
ちょっとビックリ
古寺川の瀬音がして
周りはブナ林に囲まれている
到着したその日が 渓流釣の最終日だった
30年前から釣に来ている男性と
食卓が一緒になった
その頃の古寺鉱泉は 湯船の底に
ごっそりと 砂が溜まっていたという
今も薄茶色の湯は 源泉そのものだ
(登山1日目) 古寺鉱泉/竜門小屋:10時間
5:30am 古寺鉱泉出発
天気は 曇っているが雨雲ではない
谷あいなので薄暗い
宿の裏から 緩い細い山道を登って行く
先ほど話を交わした
隣の部屋の夫婦に追い抜かれるが 顔がよく分からない
歩を進めている内 稜線に出る
一服清水 三沢清水とすぎ
水場には困らない
古寺鉱泉の主人から聞いていたとうりだ
空のペットボトル1本 持ち歩けば大丈夫・・と
8:30am 古寺山へ到着
ガスの切れ目から
これから向かう 山々が見え出した
先に着いていた男性二人に 何山かと聞かれたが
こちらも初めてなので よく分からない
10:30am 銀玉水に到着
岩の間から出ている
日本一美味いといわれる水だ
飲んでみると確かに美味い
このコースは 水場が登山道の
適当な距離のところにあるが
それは 別の場所からわざわざ
ホースで そこまで引いてあるのだ
銀玉水を過ぎると 道は急登になる
この頃から下って来る 縦走組や 大朝日岳ピストン組と
すれ違いだす
暗くて顔がよく分からないままに
話をした隣の部屋の夫婦が
もう 下りてきている
向こうも我々を見て この夫婦だったかな?
というような 顔をしていた
同じく下りてきていた 重装備の女性 4人グループから
大朝日小屋を通り越し 竜門小屋泊まりにするよう
勧められた
それでは ガンバラナクテハ! と気合を入れ直して
また 登り始めた
11:20am 大朝日小屋到着
大朝日小屋は大朝日岳を背に
草原の中に ポツンと建っていた
ここまで 難儀を予想していたのだが
意外とあっさり到着してしまった
小屋の中を覗くと 誰もいない
ただ ラジオの音がしていた
多分NHK TV に出ていた 管理人の
大場さん(84歳)がいるのだろう
リュックを小屋前にデポして
山頂へ
15分で山頂だ
360度の展望で 遠くの山々もくっきり見える
頂上の足元から続く縦走路が 中岳に向かっている
高曇りで 風もなく 我々にとって
願ってもない登山日和だ
金玉水を右に見て 穏やかな草紅葉の草原を
中岳から西朝日岳へ登る
やがて 竜門山だ
日暮れ沢分岐を過ぎると
直ぐに竜門小屋が眼下に見えた
遠くの方に目をやると
寒江山の方から 5~6人の行列が竜門小屋へ
下って来ているのが見えた
今夜は彼らと同宿だなと・・思っていると
急に下から 白髪の男性が現れた
つっかけ履きの管理人 遠藤さんが
迎えに来てくれたのだ
3:00pm 竜門小屋到着
竜門小屋は すぐ目の前に水場があり
トイレは水洗で きれいな小屋だ
見晴らしも良く
遠く月山 鳥海山も見える
頑張って来た甲斐があった
当夜は 5人グループは二階へ
我々は一階を使うことになった
遠藤さんは
大朝日小屋の大場さんと
NHK 小さな旅 に出演していたのを以前見たことがある
その時 大場さんの山形弁 「みんな ツメロー」を
代弁した人だ
食事の後 ロウソクを点けて
暗くなるまで話をした
現在56歳 去年 会社勤めをやめて
好きな 管理人をやっているという
チョモランマにも 行っているというのだが
山暦が我々とは ゼンゼン違う
山の話の核心に至らず
四方山話になった
でも 遠藤さんの
朝日連峰を こよなく愛しているという思いは
我々も共に 陶酔した
楽しい 素朴な山の黄昏どきだった
(登山2日目) 竜門小屋/大鳥小屋:9.30時間
6:30am 竜門小屋出発
雲っているが 心配した雨は降っていない
天気は回復の方へ向かっているようだ
今夜の泊りを 以東小屋から大鳥小屋へ
変更することにした
この天気だと
以東小屋泊まりの方が 素晴らしいのに・・と
遠藤さんは残念がっていた
12:50am 以東岳到着
以東岳からの眺めは遠藤さんお薦めのことだけあった
遠くの稜線が ひときわ高い 大朝日岳の方から
こちらにづーっと続いていた
ほんとうに ここまで
自分が歩いてきた道がわかるのだ
山は大きく なだらかな重なり で
谷は深く たおやかに流れ込んでいる
緑の濃淡が これほどあったのかと思うほど
色彩を見せていた
そして そのなかに
渋い秋色を すでに所々織り交ぜていた
呆然と眺めていると
ここまで歩いて来たのだナー という
実感が湧いて来た
以東岳の稜線は 紅葉の真っ盛りだった
青空と相俟って 素晴らしい眺めだ
この度の山では
錦繍の眺めは諦めていたのに
今年の紅葉は10日ほど 遅れているというが
NHKの取材班が来ていた
この素晴らしい稜線に
もう少し留まって居たかったが
眼下に見える大鳥池の傍にある
大鳥小屋へ
日暮れまでに 着かなければいけない
下りは展望コースをとった
熊の敷き皮の形をした 青い大鳥池が
だんだん近くなり
森林限界を過ぎると 道は急降下の連続となる
疲れている足には辛い
ストックを2本にして 歩いた
4:00pm 大鳥小屋着
今夜の小屋泊まりは われわれ2人だけだ
管理人はもう下山している
深く水をたたえた大鳥池は
鳥のさえずり以外 何も聞こえない
静寂そのものだ
夜中
半月に照らされた池は
神秘的で タキタロウ伝説もうなずけた
(登山3日目)大鳥小屋/大鳥登山口:3.20時間
7:40am
いよいよ今日は車の待っている
大鳥登山口までの下山だ
大鳥小屋からは渓流沿いの山道だ
ブナ林の中に 九十九折れが続く
一つ目の吊橋で
昨夜 以東小屋に泊まった男性が追いついてきた 早い!
我々が以東小屋泊まりしていたら
こうは いかないだろう
二つ目の吊橋を渡って
なおも 渓流沿いに歩く
11:00am 大鳥登山口到着
車は11時に 回送の予定になっている
ヤレヤレ着いた・・と
軽トラ2台が駐車している 回転所に
リュックを下して
マイカーは未だ来ていないな・・・と
「柳川さん 我々の足を あまくみるでないよ・・・」
などと 言いながら お菓子を出して ティータイム
その後 ダムの辺りを散歩
一時間経過
未だ 車が来ない
我々は よほど甘く見られていたのだろうか
そんなことを思っていると
渓流の音に混じって 車のエンジン音が・・聞こえたと思ったが
"消えた”
暫くすると登山者が 現れた
アレ! と 思い
リュックを背負って
ダムを通り過ぎ 向こうの岩陰まで行ってみた
そこに 登山者の車が7~8台
駐車していた
勿論 その中には我が家の車も
車はチャンと来ているではないか!
二人して なんという思い込み
ここで一時間以上のロスだ
(このあと このことを思い出すたび
二人で苦笑いだ)
12:15am さあ広島に向け出発だ
途中 湯田川温泉に立ち寄り 汗を流した
通りががりの人に 教えて貰った旅館「隼人」は
源泉そのままの かけ流し
入浴料 400円
澄んだ湯で気持ちよかった
温泉を出て 田圃の中を走っていると
このあたりでは 珍しい "うどん”の
旗がはためいている
手打ちうどん「たまり」で
中年の奥さんが一人でやっていた
素うどんを食べたが 麺が美味しくて
汁も全部飲んでしまった
広島にも こんなうどん屋さん
"ないかしらー”
その日は 上越市まで走って一泊
次の日の 午後5時 広島に到着
この度も 思い出深い山になった
朝日連峰がこんなに 良い山とは予想していなかった
危険な場所もなく よく整備されていた
一歩一歩登れば 何処までも行けそうな
愛情深い山だと思った
愛情深さは 山で出会った人たちからも
伝わってきた
古寺鉱泉のご主人
竜門小屋の遠藤さん
それから 下山道で出会った 地元の男性も
思い入れ深く
「広島の人 この山をどう思うか」と聞いてきた
勿論 「良い山だ」と愛情込めて答えた
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